今週は、60周年を迎えたSM58の話題、デンマークの劇場でのSpectera導入事例、センターフィルの設計手法、イギリスの新会場へのJBL導入事例、モントリオールの野外フェスでの騒音対策、そしてTASCAMの新しいアナウンス用プレーヤー、計6本をお届けします。今週取り上げたのは、次の6本です。
- Shure SM58、60年たっても定番であり続ける理由
- デンマークのTone Art、劇場作品でSpecteraを全面採用
- フライングのセンターフィルで、中央の聞こえにくいエリアを埋める
- イギリスの新会場「Vaillant Live」にJBL VTXを導入
- モントリオールの野外フェス、音漏れを抑える空間音響デザイン
- TASCAM、自動アナウンス用SDプレーヤー「AP-10」発売
Shure SM58、60年たっても定番であり続ける理由
Shureのダイナミックマイク「SM58」が、今年で発売60周年を迎えました。アメリカのテック系メディアが、SM58がなぜ今もステージの定番なのかを取り上げています。SM58は1966年9月に発売されました。
設計したのは、Shureのチーフエンジニアだったアーニー・シーラーです。もともとはテレビスタジオ向けのマイクとして作られ、マットブラックの仕上げも、スタジオ照明の反射を避けるためでした。ところが、放送業界の反応は鈍く、初年度の販売はわずか145本だったそうです。
転機になったのは、大音量のロックの登場でした。ハウリングに強く、とにかく頑丈なことが、ライブの現場で評価されたのです。記事では、長く使われ続ける理由として、4つの設計を挙げています。
1つ目は、落としたときにグリルがへこんで衝撃を吸収し、中のカプセルを守る構造です。2つ目は、ハンドル内部のゴムのサスペンションで、手で握ったときのノイズを抑えます。3つ目は周波数特性で、100ヘルツ以下をゆるやかに下げて近接効果を打ち消し、2キロから5キロヘルツにプレゼンスのピークを持たせています。
4つ目は、熱や湿気に強い密閉構造のカプセルです。ビリー・アイリッシュなどを手がけたエンジニアのジョン・レモン氏は、SM58は世界中のエンジニアにとっての基準だと語っています。価格は今も110ドルを切っていて、世界で最も売れているマイクだとしています。
ここからは個人的な感想です。そろそろ別のマイクを定番にしたいと思っても、やっぱり手に取ってしまうのがSM58です。価格帯も世界標準的です。近接効果がもう少し弱かったら良いとは思うのですが、これを基準にしてしまうのは仕方ないですね。

元記事:Why Shure’s 60-Year-Old SM58 Microphone Still Rules The Stage – Yahoo Tech
デンマークのTone Art、劇場作品でSpecteraを全面採用
デンマークの劇場音響・制作会社「Tone Art」が、ゼンハイザーのワイヤレスシステム「Spectera」を採用しました。Specteraは、ダブルマスと呼ばれる、1つの広い帯域を多数のチャンネルで共有する方式のシステムです。共同創業者のティム・ホイヤー氏は、当初は懐疑的だったものの、コペンハーゲン・オペラハウスでの「ムーラン・ルージュ」でテストしたところ、全く問題なく動作したと語っています。
ボディパックが1種類で、設定はソフトウェアで行えるため、作品ごとの入れ替えが簡単になったそうです。この1年半は他のシステムを使わず、約7本のミュージカルすべてをSpecteraで運用しているとのことです。初期設定では、ラベル付けやスキャン、同期の作業が減り、約半日の短縮になると見積もっています。
ネットワーク面でも、以前は40個必要だったIPアドレスが5個で済むそうです。今後は、限られたスペースのセットで、最大40人の俳優がインイヤーモニターを使う公演も予定されています。正直な感想を言うと、
度々のダブルマスの話題ですが、日本国内ではまだ使えません。そのうちに海外での使用例が増えて、バグの修正や問題点の洗い出しが進むはずです。日本で認可される頃には、さらに使いやすくなっていることに期待したいですね。

元記事:Tone Art Deploying Sennheiser Across Danish Theatre Productions – ProSoundWeb
フライングのセンターフィルで、中央の聞こえにくいエリアを埋める
左右にメインPAを置くと、ステージ前の中央に、音が届きにくい三角形のエリアができがちです。記事の筆者は、この部分を「Triangle of Sadness」、悲しみの三角形と呼んでいます。その対策として紹介されているのが、フライングのセンターフィルです。
フロントの照明トラスの中央に、小型のラインアレイを3台か4台吊るす方法です。ラインアレイを使う利点は、カバレッジを前後で非対称にできることです。バリケード側はスパッと切ってステージへの回り込みを減らし、後ろ側はゆるやかに減衰させて、メインPAに自然につなげます。
そのため、一般的なラインアレイとは逆に、下側のキャビネットほど開き角を小さくするそうです。低い帯域はメインPAが十分に出しているので、センターフィルの低域や低中域は積極的にカットして構わないとしています。タイミングは、メインとフィルが同じレベルになる境目で合わせます。
フィルを約2.5ミリ秒遅らせると、存在を感じさせずになじむのが、筆者の経験だそうです。現場目線で言うと、グランドスタックの場合でも、中抜け対策として、LRの内側に向けてスピーカーを置くことはよくあります。
センターフィルをフライングする余裕があれば、非常に有効な対策ですね。

イギリスの新会場「Vaillant Live」にJBL VTXを導入
もう一つは、イギリスの新しい会場の事例です。イギリス・ダービーにオープンした、収容人数3,500人の会場「Vaillant Live」に、JBL ProfessionalのVTXラインアレイを中心としたシステムが導入されました。コンサートや家族向けイベント、スポーツ、会議などに使われる多目的な会場です。
メインホールには、VTX A8が左右13台ずつの計26台、サブウーファーのVTX B18が8台設置されました。さらに、小さなスペースや仮設用のポータブルシステムとして、SRX910を8台、SRX928を2台導入しています。会場のテクニカルマネージャーは、VTXはホール全体を良好にカバーし、SRXは狭いスペースでも設置しやすいと評価しています。
ここで少し私見を挟むと、SRXシリーズのポイントソースは、私も長く使っていました。ラインアレイになり、さらにパワードになったSRXは、展示会のデモで聴いたことがあります。
JBLのラインナップの中では中位の価格帯なので、導入が広がるかもしれません。

元記事:JBL Professional The Choice For Valliant Live In The UK – ProSoundWeb
モントリオールの野外フェス、音漏れを抑える空間音響デザイン
次は、カナダ・モントリオールの野外フェスの話題です。「Les Francos de Montréal」と「モントリオール国際ジャズフェスティバル」では、ダウンタウンの一角が会場になります。周辺にはマンションが増えていて、市の騒音規制も厳しいため、音漏れ対策が大きな課題です。
今年は、無料で入れる屋外ステージの1つで、新しい試みが行われました。Martin AudioのWavefront Precisionシステムに、空間オーディオ処理のTiMaxを組み合わせたものです。メインは左右8台ずつのラインアレイで、フロントフィルにTORUS T820を4台、ディレイにTORUS T1230を2台使っています。
サブウーファーは、SX218を3台とSX118を6台、すべてカーディオイド配置にして、ステージ後方の音圧を約30デシベル下げたそうです。シミュレーションソフトのDISPLAY 3で、観客エリアの外に音を出さないよう最適化しています。TiMaxは、左右のステレオイメージを観客エリア全体に広げるために使われました。
ゲストのエンジニアは、いつも通りにミックスするだけで良い仕組みです。個人的に共感したのは、市街地で行われるフェスでは、やはり音漏れの問題が起こるという点で、これは世界共通です。
ぜひ参考にしたい事例ですね。

TASCAM、自動アナウンス用SDプレーヤー「AP-10」発売
TASCAMは、商業施設や展示施設向けのSDカードプレーヤー「AP-10」を、10月下旬に発売します。テーマパークや工場なども想定した、案内放送や演出音声を自動で流すための業務用プレーヤーです。1Uのハーフラックサイズで、2チャンネルの再生に対応しています。

特徴は、外部機器との連携です。GPIO端子を使って、操作盤やセンサー、タイマー、サイネージなどから再生をコントロールできます。再生状況に合わせて制御信号を出すこともでき、照明や表示機器との連動にも対応します。

さらに、OSC、オープン・サウンド・コントロールにも対応しています。設備の制御システムや、タブレットからの遠隔操作が可能です。

プレイリストは、無償ソフトの「TASCAM Playlist Editor」で作成や編集ができます。再生モードは、ダイレクト、シングル、インターバル、バイナリ、プログラムの5種類です。ライン入力のBGMとミックスでき、アナウンスが入るとダッキングでBGMを自動的に下げてくれます。
緊急時の割り込み再生や、電源を入れると再生を始めるパワーオンプレイにも対応しています。価格は、税込み12万1千円です。提案する立場から言うと、
物理メディアがディスクからメモリーに移る中で、商業空間にはこのAP-10のようなプレーヤーを提案したいと思います。一方、仮設の現場では、先月発売されたSS-R300Nのようなプレーヤーと、棲み分けて提案していきたいですね。

元記事:外部機器との連携による自動音声運用を実現するプログラマブル・アナウンスメント プレーヤー『AP-10』を発売 – TASCAM
まとめ
60周年のSM58、デンマークの劇場でのSpectera導入、センターフィルの設計手法、イギリスの新会場へのJBL導入、モントリオールのフェスでの騒音対策、そしてTASCAMのAP-10をお届けしました。
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